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奥に浴室のドアも見える。つまり、この家に足を踏み入れた者が最初に目にするのは壁であり、そしてキッチンと浴室の扉という家族の日常空間そのものなのである。この玄関は勝手口と呼んだほうがふさわしいかもしれない。廊下を進むとキッチンの右手にリビングルームがあり、その隣に主寝室が設けられている。二階に上がってみよう。階段の上り口は廊下の途中にある。キッチンまでやってきた者は、三、四歩引き返してから二階に上がるかっこうになる。階段の中間点で折り返してそれをのぼりきると、唐突に子ども部屋に出る。階段の右手に学習机、左手にベッドが置かれている。一二畳ほどはある広い部屋だ。ここは事件を起こした一四歳の中学生Aの弟たちふたりが使っている共同部屋である。階段を上がると必然的にこの部屋に出るような構造になっているので、Aが自分の部屋に入るには、弟たちの専用空間を横切らなければならない。この部屋の性格はじっに暖昧模糊としたものだ。個室かというと共同部屋であり、共同の子ども部屋かと思うと通路でもある。このバラバラ加減は記憶にとどめておきたい。そして、いよいよAの部屋に入ってみる。広さは八畳ほどあるが奇妙に細長い部屋だ。右手はベランダに出られるガラス戸になっていて勉強机が置かれている。